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    ポケモンと子どもの遊び 株式会社ポケモン代表取締役社長 石原恒和氏講演ーポケモンがゲームにおいて大切にしていることー(前編)

    株式会社ポケモン 石原恒和氏

    レポート

    2022.06.23 UP

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    セミナー「これからの子どもたちの遊びと学び」 第一部「ポケモンと子どもの遊び」

    2022年2月17日にオンライン開催されたセミナー「これからの子どもたちの遊びと学び」。
    第一部「ポケモンと子どもの遊び」では、ポケモンによって生み出されてきた豊かな遊びについて理解を深めるセッションで、ポケモンのプロデュースに携わられてきた石原恒和氏(株式会社ポケモン代表取締役社長)をゲスト講師にお迎えして、ポケモンのプロデュースにおける理念や、遊びを促すゲームデザインの考え方についてお話しいただきました。

    語り手・司会者プロフィール

    語り手:石原恒和(いしはら つねかず)氏
    株式会社ポケモン代表取締役社長・CEO。
    ポケモンの原点であるゲームボーイソフト『ポケットモンスター 赤・緑』(1996年発売)から現在まで、数多くのポケモンコンテンツをプロデュース。

    【略歴】
    1957年 三重県鳥羽市生まれ
    1980年 筑波大学芸術専門学群総合造形科卒業
    1983年 筑波大学院芸術研究科修了
    1995年 株式会社クリーチャーズ設立
    1998年 ポケモンセンター株式会社(現・株式会社ポケモン)を設立

    司会:藤本 徹(ふじもと とおる)氏
    東京大学大学院情報学環 准教授。専門はゲーム学習論、教育工学。慶應義塾大学環境情報学部卒。ペンシルバニア州立大学大学院博士課程修了。著書に「シリアスゲーム」(東京電機大学出版局)、「ゲームと教育・学習」(共編著、ミネルヴァ書房)訳書に「テレビゲーム教育論」、「デジタルゲーム学習」(東京電機大学出版局)、 「幸せな未来は「ゲーム」が創る」(早川書房)など。

    司会 藤本徹氏 では、さっそくゲストセッションに入りたいと思います。石原恒和さま、ここからは敬意をこめて石原さんとお呼びさせていただきます。ここで長々と石原さんのプロフィールをご紹介するまでもなく、みなさんの方がよくご存知かと思います。

    みなさん、チャット欄で質問させていただきます。「最近遊んだ、またはよく遊んだポケモンのゲームのタイトルはなんでしょうか?」

    (『Pokémon LEGENDS アルセウス』、『ポケットモンスター 赤・緑』、『Pokémon UNITE』などがチャット欄にたくさん投稿される)

    ありがとうございます。次はみなさんの好きな推しポケモンをお書きください。

    (「ポッチャマ」「ピカチュウ」などがチャット欄にたくさん投稿される)

    ちなみに私が最近よく遊んだのは『Pokémon UNITE』で、『Pokémon LEGENDS アルセウス』を始めたところです。私の好きなポケモンはカビゴンですね。

    では、さっそくここで石原さんをご紹介いたします。石原さん、どうぞよろしくお願いいたします。


    石原恒和氏 みなさんこんにちは。よろしくお願いします。先ほどのチャットを覗いていましたが、ポケモンに慣れ親しんでいる方々が集まっているのかなと思いました。お話がしやすくてありがたいです。

    まず、自己紹介させていただきますと、私はポケモンの原点であるゲームボーイの『ポケットモンスター 赤・緑』から関わっておりまして、1957年生まれ、今年で65歳です。


    株式会社ポケモンとはーポケモンという存在を通して現実世界と仮想世界の両方を豊かにするー

    石原恒和氏 次に株式会社ポケモンがどんな会社か簡単にご説明させていただきますと、原点となっているのはゲームです。

    「ポケットモンスター」シリーズは「ゲームボーイ」という携帯ゲーム機で遊べるゲームとして、1996年に発売された『ポケットモンスター 赤・緑』からスタートしました。
    同1996年の10月に「ポケモンカードゲーム」が発売され、翌1997年にはテレビアニメ「ポケットモンスター」の第一シリーズが始まり、1998年には『ポケットモンスター 赤・緑』の英語版が発売してマーチャンダイジングが広がって、そして「ポケモンセンター トウキョー」というお店を作りましてーー「ポケットモンスター」のゲームの中でポケモンセンターという場所が登場しますけれど、あれを現実の中に作ったらみんな遊びに来てくれるんじゃないかとーーということで始めたのがポケモンセンター株式会社でして、そこでポケモンの原作チームである株式会社ゲームフリークと株式会社クリーチャーズ、任天堂株式会社の三社が株式会社ポケモンという形にまとまって、2000年からスタートしております。

    『ポケットモンスター 赤・緑』の発売が1996年ですから、今年でポケモンは26年目ということになります。

    株式会社ポケモンの社是(Mission Statement)は、「ポケモンという存在を通して現実世界と仮想世界の両方を豊かにする」です。


    この社是を基本に、我々がゲームというものはどういうものか、ゲームがもたらすものをどう捉えているか、どういう風にこの先へ進んでいくのか、というところをかいつまんでお話したいと思います。

    「遊びをせんとや生まれけん ホモルーデンス」ー遊びに対する思いを表現する株式会社ポケモン恒例の書初め

    石原恒和氏 当社では毎年書初めをしているので、今年の書初めをみなさんにご覧いただきたいです。

    「遊びをせんとや生まれけん ホモルーデンス」と書きました。今年の干支は壬寅(みずのえとら)ですね。

    この「遊びをせんとや生まれけん」というのは、平安時代末期に後白河天皇が集めた和歌集「梁塵秘抄」の一節になります。梁塵というのは梁の塵が震えるほどの歌を集めましたよ、という意味です。詠み人は判っていないんですけども、「私たちは遊びをするために生まれてきたんだろうか。子どもの声を聴くと、自分も思わず体が動いてしまう」と、そういう歌でした。

    歌に続いてもう一つ「ホモルーデンス」と書いてあるのは、ヨハン・ホイジンガというオランダの地学者が20世紀の初頭に「人間とは『ホモ・ルーデンス=遊ぶ人』のことある」と言ったことから引用しています。
    ホイジンガは遊びこそが人間活動の本質であるという「ホモ・ルーデンス」という本を書き上げまして、それが私にとって非常に面白いもので印象に残っていまして、そういう書初めでございます。

    また先日(2月ごろ)、中国の春節がありました。その春節の時にも書初めをするんですね。


    中国でよく家や部屋の前に飾ってある、対聯(ついれん)という左右に文章が書いてあって、上にも聯(れん)がかかっているんですが、これを春聯(しゅんれん)といいますが、この春節の時に時に掲げる対聯を書初めして、いまPokémon Shanghaiに送り、会社の前に貼っています。

    この春聯の意味を簡単に説明しますと、「つくり手よし あそび手よし 世間よし 三方よし」が真中に書いてありまして、左右に「全休思考 本地行動」、これは我々のここ数年のコンセプト“Think Globally, Act Locally.”を中国語で表現した言葉を書きまして、春節が終わるまで飾っておきました。

    遊びに対する思いとか、我々がクリエイティブにおいて大切にしているのは何かと、今年の初めに皆に伝えたいという想いで、毎年書初めを書いています。

    ポケモンがゲームにおいて大切にしていることは?

    石原恒和氏 ポケモンがゲームにおいて大切にしていることを少しお話させていただきます。
    一言で言うと、「人と人がポケモンを通じて繋がる仕組み」を作る。
    それを一番大事にしています。



    例えば、『Pokémon GO』では、お互いが親友になってポケモン交換をするといいことがあるとか、コミュニケーションが加算され、累積して強くなっていくとそれに応じていろいろなことがゲーム内で起きる仕組み、「人と人がポケモンを通じて繋がる仕組み」をできるだけたくさん編み出すということを非常に大切にしています。

    『ポケットモンスター ブリリアントダイヤモンド・シャイニングパール』では、『ポケットモンスター 赤・緑』の時代からずっとやってきた「対戦によって繋がる」遊び、対戦方式から人とのランダムマッチまでいろんなことを編み出してきました。
    相手の作戦を読みながら自分のポケモンで戦う。そのためにはいろんな技を覚えさせて能力を高めておかないといけないといった、対戦によって人と人が繋がる仕組み、これをしっかり大事にしたいということですね。

    そして、「ポケモン交換によって繋がる」ということ。


    最新作(講演開催時点)の『Pokémon LEGENDS アルセウス』でも、もちろんこのポケモン交換はできますけれど、普通なかなか交換って起きないんですよ。
    『ポケットモンスター 赤・緑』の時代からの課題なんですが、例えば大体アルセウスとコラッタを交換してもらえないじゃないですか。なかなかお互いに交換しようと思うものが等価になることがないので、ゲームの中で本来、交換は非常に起こりにくい。
    その時に「どういう交換ならみんなやってくれるの?」と知恵を絞りました。
    交換したらお互い経験値が倍もらえるようにしたらどうかとか、あるいは交換することによって進化するポケモンがいたらみんな交換するんじゃないかとか、あるいはアイテムを手に入れることができるとか。
    そういった「交換すること」をネットワークの上で実現するためのアイデア開発が『ポケットモンスター 赤・緑』時代から続いておりまして、これによって人が繋がっていくことを非常に大事にしています。

    そして『Pokémon GO』では、「現実世界とリンクして歩きながら繋がる」ということを実現したいと思いました。ここで一本、ビデオをお見せします。

    『Pokémon GO』5周年記念映像「Adventures Go on!」(YouTubeへジャンプします)

    昨年(2021年)5周年だった『Pokémon GO』。コロナ禍で『Pokémon GO』はプレイされなくなるんじゃないかという意見があったんですけども、実はコロナ禍の方が『Pokémon GO』は利用されています。

    次に『Pokémon UNITE』、これは作戦行動を通じてチームで繋がるゲームです。
    プレイされた方はどんなゲームかご存知と思いますけれど、5vs5のバトルの中で、例えばプレイヤーがヒトカゲを使うとしたらそこからリザード、リザードンと進化させていき、かつプレイヤー同士お互いに協調・ケアしながら作戦を立てて行動していくと。これによってチームができたり、コミュニケーションが非常に活発になったりということが起きました。

    これも紹介しておきます。「ポケモンワールドチャンピオンシップス」というポケモンのカード・ゲームの世界的イベントを毎年やって開催しているのですが、『Pokémon UNITE』はことし2022年の新種目になりました。
    「ポケモンワールドチャンピオンシップス」はポケモンカードの大会がスタート地点で、ポケモンカードの世界大会、そしてゲーム本編の『ポッ拳』部門、『Pokémon GO』部門の大会もあります。
    2022年はロンドンで世界大会を予定してるんですが、その種目に『Pokémon UNITE』が加わりまして、いま世界各地で予選が開催されている状況です。

    もう一つが「ポケモンカード」です。
    自分でこういう編成が強いんじゃないかと60枚のデッキを編成し、対戦して試してみる。勝ったり負けたりして、バランスがまずかったんじゃないかとか、こういうカードを入れた方がよかったんじゃないかとチェックをして、そしてもう一回デッキを作り直すという「PDCLサイクル」を自分の中で回していくと、対戦相手もそれに応じて新しい作戦で臨んできたり。これがポケモンカードですね。

    この大会をずっとやってきていて、ポケモンカードによって子どもたちが対戦しているのを見ていると、カードはドイツ語だったりフランス語だったりハングルだったり、言語が全く違うので通訳をつけてはいるのですけど、相手のカードは読めません。
    しかし子どもたちはカードのイラストとメカニズムで何のカードであるか理解できるので、全くコミュニケーションに困らない。
    時々「その処理は間違っているよと相手に伝えてほしい」とか、そういう時に通訳を使ったりはしますけれども。こんなに複雑なゲームなのに、言語を超えて楽しんでくれているのはすごいなと思っています。

    ゲームとは、人と人が繋がるための道具である

    簡単にまとめますと、ゲームがもたらすものは何であるかというと、ポケモンで考えていることは、「ゲームとは、人と人が繋がるための道具である」と。

    そして、「ゲームを通して、親子が繋がる」

    『Pokémon GO』では特に三世代が繋がるというのをたくさん目撃しています。『Pokémon GO』は非常にプレイヤー層の年齢が高いんです。私ぐらいの年齢が一番多いんじゃないかと思うんですが、私よりもうちょっと上の年代の方だと、多くはまずガラケーをスマホに変えないといけないのがスタート地点です。スマホに変えて、アプリをダウンロードして起動して、フリックだピンチインだと使いながら操作して、モンスターボールを投げて、ポケモンを捕まえる。
    ここまでで相当大変なんですけど、孫が教えてくれたり、おじいちゃんが自力で頑張ると「じゃあ一緒に行ってあげるよ」と子どもが付き合ってくれたり。
    そういう点で、『Pokémon GO』では、「親子または三世代が繋がる」というのがゲームを通して行われているというのは、いい道具だなと実感します。

    そして、当然のことながら、「ゲームを通して友情や絆が生まれる」ということ。

    先ほどの「ポケモンカード」の世界大会で見られます通り、ゲームを通して、世界中の人とのつながりが生まれています。

    もう一つの面で言いますと、日本の遅れたデジタル化、ICT教育をカバーするという機能もゲームの中にはあるんじゃないかと思います。
    まさしくゲームを通して、学びを加速できると、そういうものがゲームの中には入っていると感じています。

    「遊び」を大切にすることで、人々は豊かになれる

    結論としては、『「遊び」を大切にすることで、人々は豊かになれる』ということです。
    しかし、遊びを強要したり、有用性だ、学習効果だ教育効果だ、協調性だといったところに軸足を置きすぎると、「遊び」の本質が失われてしまう。それがゲームを長年開発し、プロデュースし、みんなに長くプレイしてもらうだけの継続的なサービスを提供してきた私の、ひとつの結論です。

    後編の質疑応答につづく)

    ■後編・石原恒和氏への質疑応答はこちら
    ■講演全編の動画はこちら(YouTubeへジャンプします)

    掲載された情報はすべて記事公開日時点のものです。