あそびまなび!?

    イオンファンタジーのエデュテイメント

    EdTechのエキスパートに聞くエデュテイメントのこれから

    パーソルイノベーション株式会社 仙波敦子さん

    インタビュー

    2020.10.23 UP

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    イオンファンタジーは、これからもさまざまな「あそび×まなび」の創出に挑戦していきます。その可能性を探るべく、今回はエドテックの領域のエキスパートである株式会社パーソルイノベーション・仙波敦子さんにインタビュー。出版社にて児童書・教育書の編集に携わったほか、N高通学コース事業やWebメディアの責任者として活躍した経験なども交え、エデュテイメントの未来のあり方を探りました。

    パーソルイノベーション株式会社 仙波敦子さん

    兵庫県出身。2004年、国際基督教大学卒業後、編集者として児童書、教育書約300冊の企画・編集及び複数の事業開発に携わる。株式会社ドワンゴにて学校法人N高等学校の通学コースに準備段階から携わり、カリキュラム開発など新規開校を牽引。その後、業界最大級となった教育Webメディアの立ち上げや慶応義塾大学SFC研究所との共同研究・コンテンツ開発、HRとして組織開発・人材育成などを経て2020年7月より現職。

    あそび×まなび。子どもたちの力を引き出すために

    まず、仙波さんがお考えになる「エデュテイメント」とは、どういうものでしょうか。

    教育そのものではないでしょうか。もともと教育のことを「エデュケーション」と言いますが、大事なのは「エデュース=引き出す」という部分ですよね。子どもの力を引き出すために学ぶ/遊ぶ機会を生み出すことは、提供するサービスが違うだけで目的は同じなのかなと考えています。

    例えば、自分の体験から掘り起こすとすれば、幼い頃に行った兵庫県・淡路島のフラワーパーク。もともと植物が好きだったこともあるんですが、子どもが植物を実際に触れられるところがとても好きでした。匂いや触感など、五感そのものを使ってリアルな体験をする。図鑑を見るだけでは味わえない体験を求めるなら、自然というのは外せませんね。

    学ぶことと遊ぶことで、子どもの力を引き出すということですね。そための、キーポイントはありますか?

    二つあると思います。一つは、非認知能力です。非認知能力というのは、テストなどで点数化できる学力ではなく、思いやりや自尊心など人格面の能力で、成長してからの経済的効果があると言われています。

    これは、対象年齢がイオンファンタジーと重なるという意味で、私が出版社で児童書を編集していたときの事例が参考になるでしょうか。

    子ども向けに数あるコンテンツの中で一番ニーズがあったのは、ダントツで動物を扱ったものでした。その中でも犬です。特に、盲導犬のように“働いている犬”の人気は絶大でした。理由はもちろん、多くの子どもは犬が好きというのもあります。ですが、子どもに与えるコンテンツを選ぶ側の保護者や先生に、「子ども達が思いやりや他者への共感を育てられる」と、教育的観点で非常にポジティブに受け入れられたからこそのニーズだと感じました。

    『赤い首輪のパロ』加藤多一作(汐文社)

    そして、二つめのキーポイントは、デジタルです。特にコロナ禍においては、子どもたちが集まって遊ぶのがなかなか難しくなっています。ですから、いかにエデュケーションにデジタルを溶け込ませるかというところが、事業としてのキーなのかなと思いますね。

    子ども主体でゲームを通して学ぶ。デジタル化の最前線

    エデュテイメントとデジタルの掛け合わせは、これから進んでいきそうですね。その際の、導入のポイントを教えてください。

    そうですね。デジタルを導入するにあたっては、特に「子どもの使い勝手」から離れないようにする必要があります。例えば、中学2・3年生以下であれば、検索するときに文字入力をせずにボイス入力を使う子も多いです。確かに冷静に考えると音で入力したほうが早いのですが、私たち大人はどうしてもまだ文字で入力してしまう。こういった細かな習慣の違いを理解してUXを選択しないと、子どもたちの感覚とズレてしまいます。

    確かに、子どもたちの感覚から外れてしまうと、遊び心は芽生えませんよね。では、デジタルを活用したエデュテイメントの成功のポイントを教えていただけますか。

    例えば最近、コンピューターゲームをスポーツ競技に見立てた「eスポーツ」が人気ですよね。子どもたちの間でも、「将来、プロゲーマーになりたい」「eスポーツで活躍したい」といった声もよく聞かれます。

    このeスポーツをオンライン上で一緒に遊びながら、同時に英会話をも学んでいくといったサービスが日本に登場して、非常に面白いと思いました。趣味(ホビー)と重ねて英語を学ぶことを「ホビイングリッシュ」などと言いますが、eスポーツの本場、海外の大会に出場することを考えると英語は絶対に必要なので、現実的なニーズもしっかり捉えています。このサービスは希望者が多く、現在抽選になるほど人気があるそうです。ゲームと教育は一見離れてみえますが、エデュテイメントでは常識にとらわれず何でも教育になるというくらい広い視野で考える必要がありそうです。

    子どもたちの未来のために。これからのエデュテイメントの向かう先

    好事例が生まれている一方で、日本にはエデュテイメントという言葉があまり普及していないように思います。それはなぜでしょうか。

    そうですね。理由としては、エデュテイメントという言葉から受け取るイメージが多様すぎるのではと個人的には思っています。「エデュテイメントってこうだよね」という定義やサービスを、今後は作って発信していく必要があるのかもしれません。

    もし私が定義するなら……「学ぶ楽しさ」でしょうか。そもそも今はエデュケーションとエンターテイメントのイメージが大きくかけ離れていると思うんですよね。既存のエンターテイメントに何かしらの「学ぶ」要素を付加する、またその逆など、もっと掛け合わせていくことが大切なのだと思います。

    まさに、あそび×まなびですね。では、これからのエデュテイメントはどのような方向に可能性があると思われますか。

    人生100年時代と言われてしばらく経ちますが、寿命が伸びると学びも変わるのではないでしょうか。編集者時代からご縁がありN高の入学式にも祝辞をいただいたホセ・ムヒカウルグアイ元大統領は「貧乏とは少ししか持っていないことではなく、無限に多くを必要とし、もっともっとと欲しがることです」など生き方を説いたスピーチが有名ですが、私は日本の子供たちに向けて語った「学び方を学ぶ事が大切だ。人は学んでも学んでも学び足りない」という言葉が印象に残っています。

    84歳でもまだ好奇心を忘れない、学び続ける姿勢はぜひ子供達にも伝えたいですね。先の見えない変化の激しい現代では、働き続ける限り学び続ける事が求められます。エデュテイメントは楽しさ・興味関心といった参加者の自発性を刺激しますが、学習動機の持続性に大きく貢献する可能性がありますね。

    また、サービスの提供者に必要なのは、未来に向けた視点だと思います。例えば、「今の子どもたちが20歳になったときはこんな社会になっている」といったイメージを持って進みたいですね。10年後は時代や考え方が変わって、今、小学校で習っていることが、もしかしたら陳腐化しているのではないかという議論もあります。未来において本当に役立つものとは、彼らに求められるものとは何だろう、と常に考え続けなければいけないと思います。

    そういうことを突き詰めていくと、今後は生命に関することが面白いキーワードになっていくのではないかと感じています。 今、コロナ禍にあって、ペストが大流行した中世の歴史がよく引き合いに出されます。ペストが流行したしばらく後にはルネッサンスの波が起きて、社会や思想の枠組みを変える大きな変革点となりました。今がまさに変革の只中だと思いますが、子どもたちは毎日外出時には命を守るためマスクをして消毒液をつけ、日々メディアを通して生死に関わる情報に接しています。ここまで命というテーマが広く身近なものになった事はないでしょう。そこで改めて、子どもたちに命について考えてもらうエンターテインメントが欲しいなと思っているんですね。

    命をテーマにしたエデュテイメントは、「すべての人に健康と福祉を」というSDGsにも絡めて開発できそうです。

    そうですね。命に関わる教育は「子どもにはまだ早い」「テーマが重い」などの意見がある一方で、AIの分野では社会道徳やモラルの線引きが絶対に必要で。AIの意思決定をどのように定義づけるのか。そのために必要になる人材は、実は倫理学者だともいわれているんです。DNAなども同様で、最新の技術は常に社会の価値観を更新します。これらは長期的に考えなければいけないので、子どものうちから触れておくことは必要かと思っています。

    同時に、長寿命社会ですから、いかに健康的に生きるかというヘルスケアの視点も重要ですね。例えば、人間の細胞は体内で生まれては死んでを繰り返し、日々新しく入れ替わっています。この人間の細胞の生まれ変わりのしくみを、今のテクノロジーを使えば、遊びながら楽しく伝えることができるのではといったことも考えています。

    掲載された情報はすべて記事公開日時点のものです。