あそびまなび!?

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    釣り好き少年の「夢中」が、
    サバにマグロを産ませる研究につながった

    東京海洋大学 吉崎悟朗 先生

    インタビュー

    2021.02.15 UP

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    絶滅危惧種であるクロマグロを増やす研究をしている東京海洋大学の吉崎悟朗先生。小さい頃から釣りが大好きで、「自然や魚たちを守りたい」という一心で、研究の道へと歩みを進めました。
    先生の「好き」はどのように形づくられたのか、その思いが、どのような経緯で研究につながっていったのか……? 子どもの頃の「好き」や「夢中」と、そのなかで育まれる学びについてお話をお聞きしました。

    東京海洋大学 吉崎悟朗(よしざきごろう)先生

    1966年、神奈川県生まれ。1993年、東京水産大学(現・東京海洋大学)水産学研究科博士課程修了。水産学博士。同年米国テキサス工科大学農学部博士研究員。1995年、東京水産大学水産学部助手。2003年、東京海洋大学海洋科学部准教授。2012年より現職。「ヤマメにニジマスを生ませる技術」を開発し、絶滅危惧種をはじめとする希少な魚を保全する研究に取り組む。

    吉崎研究室HP:http://www2.kaiyodai.ac.jp/~goro/index.html

    まるで宝箱のよう! 命あふれる潮だまりの世界

    吉崎先生は東京海洋大学で、マグロをはじめとする絶滅危惧種の魚を増やす研究をしていらっしゃいます。そもそも、いつ、どのようなきっかけで魚に興味を持たれたのでしょうか?

    小学校4年生の夏休み、たまたま中耳炎になり海やプールに行けなくなって、「やることがないから」と釣りを始めたことがきっかけです。まずは江の島にある岩場の潮だまりで、父と一緒に、竿ナシの魚釣りに挑戦しました。針のついた糸を手で持って静かに水面に垂らすと、一見、どろめと呼ばれるハゼの仲間しかいないように見える潮だまりから、小さなエビやカニなど、いろんな生き物がわーっと顔を出してきて……。まるで宝探しのようで、一瞬にして、小さな潮だまりの世界に心を奪われてしまったことを覚えています。

    こうして釣りにハマり、そして、釣った魚を調べるために魚図鑑を読むようになりました。そのうちに、図鑑のなかの「関東の沿岸の魚たち」という見開きページに載っていた魚をすべて釣りたいという目標を持つようになって、ますます釣りにハマってしまいました。小学校の後半はひたすら釣りをしに海岸に通う、まさに“釣りマニア”の少年でした。

    「魚に関わる仕事がしたい」と思われたのはいつ頃なのでしょうか?

    高1のときです。夏休みに、「『地域の産業について』というテーマで原稿用紙100枚のレポートを書きなさい」という宿題が出て、「どうせなら大好きな魚について調べたい」と思い、神奈川県の水産業について調べることにしました。

    そのなかで出会ったのが、神奈川県の水産技術センターです。調査のために一般公開日に訪問し、入ってすぐ、巨大な水槽に目を奪われました。釣り好きなら一度は釣ってみたいと思うであろう憧れの魚・クロダイが群れをなして泳いでいて、その隣の水槽には、信じられないぐらい大きなマダイやヒラメが、これまたうようよと泳いでいたのです。しかも、水産技術センターは、海を守り、魚を増やす研究をしているとのこと。僕にとってはパラダイスのような、どストライクの環境で、すぐに「ここで働きたい!」と思いました。

    それで、見学の最後に設けられていた質疑応答の時間に「ここで働くにはどうすればいいんですか?」と質問し、職員の方から「職員の半分ぐらいは東京水産大学(現・東京海洋大学)の出身だから、東京水産大学に入るのが近道だと思うよ」と教えていただいたのです。

    そのときに、「僕は東京水産大学に入るぞ!」と決めてしまったというか、決まってしまったというか。すぐにその後、東京水産大学の入試科目や、合格者の最低点などを調べ、戦略を立てて、高3の冬から「水産大学に入るための受験勉強」を始めて、実際に入学することができました。

    美しいヤマメや光輝くマグロを、なんとかして守りたい!

    東京水産大学では、どのような学生生活を送っていましたか? どんな経緯で、水産技術センターへの就職ではなく、研究の道へ進まれたのでしょうか?

    クルマやバイクの免許を取ったことで行動範囲が広がり、海だけでなく渓流での釣りにも関心を持つようになりました。テントを背負って山に入り、野宿をしながら魚を追って、どんどんと上流に入っていく……。美しいヤマメに出会い、イワナを釣り、それはそれは楽しい毎日を送っていました。そんなときに、しばしば気になったのが、“川の濁り”です。雨が降っているわけでもないのに川の水が汚れていることがちょくちょくあって、「これはなんなんだろう」と疑問に思いました。当時、よく行われていたのが、堰堤(えんてい)という小さなダムのようなものの建設や、川岸をコンクリで固める治水工事です。濁った川をさらに遡ると、そこでは河原を重機が走り回っているという残念な光景が広がっていました。これらの工事が原因で下流に土砂が流れてきていることがわかりました。

    多くの魚たちは川底で産卵します。ですから、川底がコンクリで埋められていたら産卵ができません。また、川岸が固められていることで木々が育たなくなり、魚のえさになる虫も減ってしまいます。あの美しい魚たちが、自然が、人間のために犠牲になっている。そう思うととても悲しく、「なんとかして魚たちを守りたい」と思うようになりました。これが僕の、研究を志すに至った原体験です。

    もうひとつ、学生時代の出来事で忘れられないのが、大学の釣り仲間と一緒に初めて船をチャーターし、海釣りへ行ったときのこと。真っ青なマグロの大群が陽の光を受けてキラキラと輝きながら凄まじいスピードで船の下をすり抜けていく様子を見て、「なんて美しいんだろう」と感動しました。本マグロの正式名称は、「クロマグロ」です。ただしこれは日本での話。欧米では、「ブルーフィンツナ」と呼ばれているんですよね。日本人は死んだマグロ、つまり食べ物としてのマグロを見てクロマグロという名前をつけ、欧米人は、生きたマグロを見てブルーフィンツナと命名しました。そんなことを思い出し、この瞬間に、僕のなかでマグロが食べ物から野生生物に切り替わったのです。「こんなにも美しく活力に満ちたマグロたちが食べ尽くされるなどあってはならないことだ」「絶滅危惧種であるマグロを少しでも増やしたい」、そう思ったことも、研究の道へと進むひとつの要因になりました。

    遊びも学びもがむしゃらに! 「とことん」「夢中」が人生を豊かにする

    現在、吉崎先生は、サバを代理の親にしてマグロを増やす研究や、ニジマスの精子や卵のもとになる細胞である「生殖幹細胞」を試験管内で増殖させる研究をしていらっしゃいます。釣りに没頭した体験や、魚が好きであるという気持ち、守りたいという思いが、ストレートに現在の仕事につながっているのですね。

    そうですね。実は、僕の父親は、画家なんです。それもあって家庭内に、なんとなく好きなことに没頭することをよしとする空気があった。遊びや面白いと思うことに向かって全力で走っていくことができました。学生や子どもたちにも、興味を持ったことはとことん追いかけてほしいと思っています。それが将来、粘り強さにつながるし、いい仕事をするという当たり前のことにもつながっていくと思うのです。

    一方で、「学校の勉強をないがしろにしないでほしい」ということも強く伝えたいですね。学校での勉強は、すべて、いつかかならず役に立ちます。歴史を学んでおけば旅に行ったときにその土地や建物の背景にある物語が見えてより旅を楽しめますし、英語の基礎ができていれば必要に迫られたときスピーディーに英語を使いこなすことができます。数学で培われる論理的なものの見方や考え方、国語で養われる語彙力や読解力、そして音楽や美術など、すべての勉強は、人生を楽しむためのプレゼントのようなもの。それをみすみす捨ててしまうのは、本当にもったいないことだと思うのです。

    とことん遊んで夢を追いかけるだけでなく、ぜひがむしゃらに幅広く学んでほしい。学びによって知識が蓄えられると、さまざまな知識がリンクして、より遊びや夢、興味の世界が鮮やかに広がるはずです。「夢中」と「学び」、この掛け算で、自分の世界を広げるような体験を積み重ねて行ってほしいなと思います。

    掲載された情報はすべて記事公開日時点のものです。