あそびまなび!?

    イオンファンタジーのエデュテイメント

    “遊び”と“学び”はまったく同じ!?
    ゲームと教育の専門家二人が語るゲーミフィケーション教育(後編)

    藤本 徹氏・岸本 好弘氏

    対談

    2021.07.15 UP

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    ゲーム開発の経験を活かしてゲームデザインを大学で教えてきた岸本好弘氏は、授業そのものにゲームの要素を取り入れて、生徒たちが面白い!と感じる授業を行ってきました。このような、ゲームの要素を学校の授業などゲーム以外のことに応用することをゲーミフィケーションといいます。

    今回は、教育者としてゲーミフィケーションの有用性を説く岸本氏と、ゲーム学習論・教育工学を専門に教鞭をとられている藤本徹氏の対談をお届けします。

    お二人に共通するのは、ゲーミフィケーションを授業に取り入れたら、まなびはもっと楽しいものになる!という想い。人を夢中にさせるゲーム開発についてや、ワクワクしながら学ぶことの大切さなどが語られました。

    全2回の後編では、教育にワクワクすることを取り入れるとどんな効果があるのか、さらに熱く語っていただきます。

    聞き手(写真左):
    東京大学大学院 情報学環 准教授 藤本 徹(ふじもと とおる)氏

    博士(Ph.D in Instructional Systems)専門:ゲーム学習論、教育工学。著書に「シリアスゲーム」(東京電機大学出版局)、「ゲームと教育・学習」(共編著・ミネルヴァ書房)、訳書に「テレビゲーム教育論」(東京電機大学出版局)、「幸せな未来は「ゲーム」が創る」(早川書房)など。
    ゲームを通じて子どもの能力を育てるオンラインゲームスクール「ゲームカレッジLv99」の監修も行う。


    話し手(写真右):
    一般社団法人 日本ゲーミフィケーション協会 代表理事 岸本好弘(きしもと よしひろ)氏

    日本ゲーミフィケーション協会の代表理事であり、代表賢者Lv98。およそ30年にわたり、ナムコ、コーエーにて、ゲームクリエイターとして有名ゲーム開発を手がけ、「ファミスタの父」とも呼ばれる。その後、東京工科大学メディア学部にてゲーミフィケーション、ゲームデザインを教える。2019年、日本ゲーミフィケーション協会を立上げ、数々の取材で得た知見を集める。著書「ゲームはこうしてできている」。好きな食べものはオムライス。
    写真中央は日本ゲーミフィケーション協会の講義でも活躍するオリジナルキャラクター「きっしーぐま」。

    前編はこちら

    教育の現場でゲーミフィケーションを応用したら?

    藤本 学校教育の話をすると、学校の授業は90分や50分が一般的です。時間に制約がある中で生徒たちにどんな経験してもらうかということが大切ですが、ゲームデザイナーの方はこの点について視点が違うのかなと思うことがあります。学校の先生はこの時間内にこれとこれを教えなくてはならないという意識があるから、一方的に教えるべきことを列挙しがちです。でも、ずっと説明が続くのでは、生徒たちは聞かなくなってしまいますね。

    岸本 ゲーム制作の現場では、秒単位のこだわりがあります。ゲームで最初の敵やアイテムが出てくるまでの秒数は、必ずプレイヤーが気持ちよくプレイできる場所に調節してあるんです。生徒に一度ゲームをしてもらって、後から「最初の敵が登場するまで何秒だったと思う?」と質問をして、実際に測ってみることもしました。想定より短かったりして、制作者はこんなことを意識しているんだと教えるのです。

    藤本 ゲームデザイナーが行っているこうした「つくりこみ」は、教材、特にeラーニングなどでは行っていないことが多いです。教科書会社が考えた教材を使って、とりあえず教師が一方向で伝えれば終わり。面白くするためにはどうしよう、とは予算的にも時間的にもあまり考えられていないのが現状です。本当は、こうやって“遊び”の要素を取り入れながらブラッシュアップする時間をとれば、もっと教育の質が高くなると思っています。

    ““遊び”の要素を取り入れながらブラッシュアップする時間をとれば、もっと教育の質が高くなる“

    ゲームはプレイヤーと一緒になってつくるもの

    岸本 ゲームはすべての仕様を入れた後、プレイヤーにテストプレイしてもらいます。制作側が面白いと思って作ったものがプレイヤーに響かないこともあり、そうすると作り直しするんです。悪いところを直して、いいところは残すという、プレイヤーの意見を踏まえた調整をしていきます。ゲームはプレイヤーの体験だから、プレイヤーがやってみて面白いのか、いまいちなのかは非常に大事な部分です。ゲームは遊んでくれるプレイヤーと制作側のペアで成立していると言えるでしょう。

    藤本 どういうゲームにするのか作り手と一緒になってやっていく。そういう作り手が作った長い時間遊びたくなるようなゲームは学べることも結構あると思います。プレイヤーにこういう経験をしてほしいという思いを持って制作にあたるのですか?

    岸本 そうです。エンタメ業界では「面白い」というのが最も大切にされる要素ですが、「面白い」にはいろいろある。そこを徹底して考えるんです。学生にゲームの企画書の作り方を教えるときは、あなたがプレイヤーに感じさせたい「面白い」は何?とまずは問います。学生の「面白い」は漠然としていますから、あなたは何が面白いと感じて、プレイヤーが何を体験して、何を面白いと感じるゲームなのか、もっともっと深い分析をさせるのです。

    藤本 ゲーム好きな人でも何が面白いとは言語化していないから、そこを先生や開発者の先輩が問いかけて、その人がだんだんと理解するのが学びの一つですよね。

    岸本 「なぜ?」を考えさせるのは、一般の教育でも大事です。先生は答えを知っているから言いたくなるけど言わないこと。先生が答えを教えないで「なんでだと思う?」という問いかけが非常に大事。知識を教える必要はあるけれど、それをどうやって知恵に変えるかというのは学んでいる本人次第。「なぜ?」と考えることが次の時代をつくると思っています。

    藤本 それと、一緒に考える仲間がいることが大事ですよね。ゲームも難しいとか簡単すぎると一人では続かない。自分の中に留めずに発信したり、人に話したりするだけでだいぶ変わると思います。

    遊びと学びは同じこと。楽しい学びは成立する!

    藤本 岸本先生はずっとeラーニング業界や教育業界、社会人向け研修などでゲーミフィケーションについて話していますが、そうした方々のリアクションはどうですか?

    岸本 やはり面白いのは、教育や仕事は楽しくあってはいけないとすり込みがされていること。ゲーミフィケーションの話をすると、「そんなのありですか!」と結構言われます。だから、楽しく仕事をする=ふざけているみたいな、昭和のかなり古い価値観というのが今でも残っているんだなという気はします。

    藤本 なるほど。私はもっと楽しい要素を入れた方が意欲も高まるし、学べると思いますが、学びは辛いものだという価値観があるとゲーミフィケーションは広まりにくいですね。

    岸本 そうですね。学びとゲームは相反するものであるという考えも未だに存在します。ゲームという言葉のイメージがよくないらしいから、私は言い換えて「モチベーションメソッド」ということもあります。初めての仕事や部署で不安に思うとき、飽きが来てやる気にならないとき、その第一歩を踏み出すための背中を押してあげたいときにゲーミフィケーションは使える、という話をすると。「あ、モチベーションアップができるんですね」と伝わることがあります。「ワクワク」というキーワードを上げて、「ワクワクすることって誰にでもありますよね。そのワクワクがモチベーションをアップするためには大事なんです」、というと同意してくれる。ゲーミフィケーションは徐々に受け入れられてきていると思います。本当に徐々に、ですが。

    藤本 ゲームに対するイメージの問題もあります。ゲームは苦手で嫌だという人もいますから。ゲーミフィケーションの“遊び”という感覚は“学び”と同じなのですが、そのイメージで社会に受け入れられないこともある。

    岸本  私も“遊び”と“学び”はまったく同じだと思っています。

    ”遊びと学びはまったく同じ

    藤本 遊びはとても重要で、たとえば「ファミスタ」の開発ストーリーのように、「とりあえず何かやっておいて」、という一言からすごいゲームが生み出されたりしますから。現代はこういう余裕がなくなっている印象があります。

    岸本 効率化とゲーミフィケーションは相反するかもしれませんね。効率よく学ぼうとするとゲーミフィケーションのような楽しさは必要ないかもしれない。だけど、それでは継続して学ぶことは難しい。

    現代のようなITの時代に、昔と変わらず先生の言ったことをいかにうまく復唱できるかという教育はそぐわない。徐々に変わってきてはいると思います。先生は一方的に生徒の前に立ちはだかる存在ではないんです。先生だって字を間違えることもある。だから、私の授業では生徒が私の誤字脱字など間違いを発見して指摘したらポイントをあげています(笑)。たとえ、先生は生徒の前に現れたモンスターだとしても、弱点くらいあるものです。倒せない敵ではなくて、攻略法があると思わせることが大事なのです。

    藤本 学校の先生でも人気のある先生はそういう工夫を取り入れていますよね。生徒や子どもたちが参加したくなるしかけをいっぱい取り入れているんです。ゲームデザイナーはゲームのルールを考えることが得意だから、授業にも面白いと思う要素を入れられるのだと思います。それはゲームデザイナーの強みですよね。

    学校の先生にはルールは変えるものだとか、つくるものっていう認識がそもそもありません。授業もやはりデザインする対象であると考えるなら、どうデザインするかとなる。そうすると、やはりゲームデザイナーの考え方は面白くて、生徒の良い反応を引き出すようにルールを変更するというのは、面白い授業になる理由だと思います。

    岸本 授業でとても意識していることは、今学生がどう思っているかということ。みんな面白いと思ってくれているかな?とかそういうのを非常に意識しています。

    藤本 先生たちの中には、引き込まれるような面白い話をしないといけないと思ってしまっている人もいます。そうじゃなくて、引き込まれるような面白いルールを入れるということですよね。これは観点として違います。

    ワクワクするような楽しいこと、夢中になることが学びには大切

    岸本 21世紀型の教育の中で大事なキーワードは「好奇心」だと思っています。生徒や子どもたちにどうしたら「好奇心」を持たせられるか。先生がいなかったら学べなかった昔と違って、今はほとんどのことをパソコンやスマホで調べられますから、知識の詰め込みより能動的に学びたくなるようにする方が大事です。でも、生徒や子どもたちに「インターネットがあるから自分で調べて」、と言うと「えーーっ」ってなる。だからこちらから調べるようにとは言わない。生徒や子どもたちが「好奇心」を持ったら最強です。そうなったら勝手に調べ出して学びますから。夢中になって学ぶというのはこういうことなんです。

    藤本 生徒や子どもたちが調べたくなるように仕向けるということですね。

    2020年度から小学校でスタートした新学習指導要領では、変化の激しい社会に必要な「生きる力」を育むことを目標に、「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」を通じて生涯にわたって能動的に学び続ける力をつけることも求められている。
    参考資料:
    文部科学省 新しい学習指導要領リーフレット
    https://www.mext.go.jp/content/1413516_001_1_100002629.pdf
    文部科学省 学習指導要領の趣旨の実現に向けた個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に関する参考資料(令和3年3月版)
    https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/senseiouen/mext_01317.html

    岸本 そうです。よく言うのですが、ゲームって全部「そそのかし」なんです。ゲームをプレイしていて、Aの洞窟に行きなさいとか、Bの洞窟には行くなとは言われないですよね。プレイヤーが2つの洞窟をぱっと見たときに「こっちの洞窟に宝があるかも!」って見えるように作っているんです。これを「そそのかし」って言うんです。間違っても、ストレートに「Aの洞窟に宝物があるなどという看板を立ててはいけません(笑)。

    だから、それと同じで子どもや生徒に対して授業をするときに、先生は答えを教えるのではなく、生徒が自分で「わかった!」、「僕が一人で気が付いた!」と思わせることが大切。これが彼らが主体的、能動的に学び始めるきっかけになっていくのです。

    ゲームをデザインするのも授業をデザインするのも同じです。楽しいと思うことやワクワクすることは脳の働きを最大限にする。だから、つらいことを我慢するのはよくない。脳が楽しいと感じることがとても大切なんです。

    藤本 生徒や子どもたちには好奇心を持ってワクワクしながら遊んでほしい。結果それが夢中になって学ぶことにつながるということですね。岸本先生にはこれからもゲームデザインのノウハウを社会や教育に活かしていただきたいです。

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