あそびまなび!?

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    「Pokémon GO」によって、人類は深宇宙に到達!? 株式会社ポケモン代表取締役社長 石原恒和氏講演 ポケモンがゲームにおいて大切にしていること(後編)

    株式会社ポケモン 石原恒和氏

    レポート

    2022.06.27 UP

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    セミナー「これからの子どもたちの遊びと学び」 第一部「ポケモンと子どもの遊び」

    2022年2月17日にオンライン開催されたセミナー「これからの子どもたちの遊びと学び」。
    第一部「ポケモンと子どもの遊び」では、ポケモンによって生み出されてきた豊かな遊びについて理解を深めるセッションで、ポケモンのプロデュースに携わられてきた石原恒和氏(株式会社ポケモン代表取締役社長)をゲスト講師にお迎えして、ポケモンのプロデュースにおける理念や、遊びを促すゲームデザインの考え方についてお話しいただきました。

    語り手・司会者プロフィール

    語り手:石原恒和(いしはら つねかず)氏
    株式会社ポケモン代表取締役社長・CEO。
    ポケモンの原点であるゲームボーイソフト『ポケットモンスター 赤・緑』(1996年発売)から現在まで、数多くのポケモンコンテンツをプロデュース。

    【略歴】
    1957年 三重県鳥羽市生まれ
    1980年 筑波大学芸術専門学群総合造形科卒業
    1983年 筑波大学院芸術研究科修了
    1995年 株式会社クリーチャーズ設立
    1998年 ポケモンセンター株式会社(現・株式会社ポケモン)を設立

    司会:藤本 徹(ふじもと とおる)氏
    東京大学大学院情報学環 准教授。専門はゲーム学習論、教育工学。慶應義塾大学環境情報学部卒。ペンシルバニア州立大学大学院博士課程修了。著書に「シリアスゲーム」(東京電機大学出版局)、「ゲームと教育・学習」(共編著、ミネルヴァ書房)訳書に「テレビゲーム教育論」、「デジタルゲーム学習」(東京電機大学出版局)、 「幸せな未来は「ゲーム」が創る」(早川書房)など。

    司会 藤本徹氏 (前半の講演にて)株式会社ポケモンの皆さまの、プロデュースする時の大事な考え方を伝えていただいたと思います。
    まさに結論の部分、私自身もあそびとまなび、ゲーム学習論の研究室を立ち上げて活動しているんですけども、本当に有用性に軸足を置きすぎると遊びが損なわれてしまって、上手くいかなくなってしまうことが多いですよね。だから「ためになるから遊びなさい」というのはなかなか上手くいかないというのを日々感じているところです。

    あそびの側から、またまなびの側から、どこがちょうどいい接点なのかなというのを探索している所であります。非常に重要な論点を出していただいたと思います。

    質疑応答目次:
    『Pokémon GO』はどこから生まれたのか
    ポケモンが育む、子どもの学ぶ力やコミュニティ
    ポケモンとダイバーシティ
    ポケモンと最新のテクノロジー
    ポケモンは知らない人と繋がらない? 子どもが安心してプレイできる仕組み
    株式会社ポケモンは「ポケモンしかやらない会社」、自社の新作を追いかけるのだけでも大変!?
    石原恒和氏の「遊び観」ー遊びとは、好きな時に好きなように何にも束縛されないで行動すること
    ゲーム作りの意識は「誰も遊んだことのないゲームを作る」から「どうリファインするか」に、さらに変化は続く
    アイデアをゴールに持っていくプロデュースー厚い企画書を燃やしてスタート地点に戻すのが効果的なことも
    「ポケモンが絶対に変えないこと」は、導入部分のあのシーン
    石原恒和氏が特に思い入れのあるポケモンタイトルは……
    『Pokémon GO』によって、人類は深宇宙に到達!?
    ゲームが育む日本のデジタルリテラシー
    終わりにーポケモンシリーズのように、ずっと続けると面白いことがたくさん生まれる

    『Pokémon GO』はどこから生まれたのか

    Q.『Pokémon GO』の始まりの企画はどちらから始めたんでしょうか?

    藤本氏 「『Pokémon GO』の始まりの企画はどちらから始めたんでしょうか?」という質問があるんですけども、これはいかがでしょうか。

    石原恒和氏 『Pokémon GO』は2013年に『Ingress』というゲームを開発したGoogleの社内スタートアップのNiantic社によって作られまして、彼らはGoogle Mapのチームでしたので、位置情報を使って「▽の地点を塗りつぶしたら自分の地所になる」とルールを作って、世界中、地球中を使って陣取りゲームをやってみようと、ゲームを開発したんですね。
    このチームがちょうど株式会社ポケモンと同じオフィスビルの26階にあり、我々株式会社ポケモンが18階におりましたので、そのチームがやってきて、「ポケモンをGoolgle Mapで捕まえるゲームを一緒に作ろう」という話が盛り上がりまして、そこから3年間かけて、彼らと『Pokémon GO』を開発していったのがスタート地点ですね。

    ポケモンが育む、子どもの学ぶ力やコミュニティ

    Q.ポケモンを教育の分野で活かしていく取り組みについての考えは?

    藤本氏 先ほどの結論にあった有用性の部分、あるいは今日は教育分野の方が結構お越しになっているのでご関心のあるところだと思うのですけど、ポケモンのゲームやキャラクターなりを教育の分野で活かしていく取り組みについてのお考え、基本的なスタンスというところはいかがでしょうか。

    石原氏 『Pokémon UNITE』もそうですけども、『ポケットモンスター 赤・緑』の時代に特に感じたのは、3、4歳でクリアしている子がいたという……彼らは最も早くひらがなカタカナを覚えて、「こうかはばつぐん」の技を使ってポケモンを倒すということまで計算できているというのに驚いて、「こんなに早くものが覚えられるのか」というのがスタート地点にありまして。
    だったらこういうのできるのかなと思うと、みんないとも簡単に5、6歳でクリアしてしまって。
    自分たちは中学生から高校生くらいが遊ぶゲームとしてポケモンを考えていたのですが、小学校低学年くらいでできてしまう。彼らの学ぶ速度、文字を覚える・計算する速度と、我々が想像するものと全く違っていたので、こういうのはものすごく効果があるんだなというのがスタート地点でしたね。

    そのあとはポケモンを交換するとか、あるいは世界中の人とカードでバトルするとかそういう競技を設定していった結果、さらに学ぶ力とか、より強くなろうとするマインドとか、コミュニティとかがどんどん生まれていったので、そういうことはすごく効果があるんだなと思いました。

    逆に、教育する側からそういう場をセッティングしていったときに、子どもたちがどこまで乗ってくれるのかというのはまた別問題ですよね。その辺が難しい所かなと思います。

    藤本氏 本当にそうですね。幼稚園ぐらいの子どもにとってはポケモンシリーズのゲームはかなり情報量が多くて複雑なルールですけども、あそびこなしているというところが非常に驚きで、もともと小さい子どもたちが遊ぶことは意図していなかったんだけれども、作ってみたらそうなったということでしょうか。

    ポケモンとダイバーシティ

    Q.女の子がポケモンに興味を持つ入口やフックを作る工夫やポイントは?

    藤本氏 デザインのところで伺いたいところがもう一つ、やはりポケモンで遊ぶ子どもたちの熱の度合いが違うというコメントが来ています。
    例えば男の子と女の子では、他のプレイヤーと遊ぶとか競争するとか、ポケモンに興味を持つ入口やフックが違うと思うのですけど、女の子もたくさんプレイしているので、女の子が「遊ぼう」と思うような工夫やポイントがあれば伺いたいです。

    石原氏 そうですね、『ポケットモンスター 赤・緑』の時代は主人公が男の子ですし、男女比率、ジェンダーギャップは大きかったと思います。大体7:3で男子が多いという感じでしたね。今は55:45ぐらいになっていると思うのですけど。
    キャラクターを男女で選べるとか、最近はアメリカなどそのあたりの感覚が非常にシビアになってきていますので、男女という分け方じゃない分け方、あるいは肌の色をどのように表現するかのバリエーションを出すとか、ものすごく多様性を求められています。そういったことへ配慮することはここ4,5年、ものすごく重要になってきています。

    男女によらずいろんな人が楽しめる入口を用意しなければならないですし、偏った表現になっているという指摘が来ないような努力も必要かと思ってます。

    ポケモンと最新のテクノロジー

    Q.VRやメタバースなど、最新のテクノロジーをポケモンに活かしていくのでしょうか?

    藤本氏 新しい技術がどんどん入っていく中でそれをうまく取り入れるという話もありましたけども、ゲームボーイの時から比べると使えるテクノロジーも高度になってきて、最近はVRやメタバースというところまで展開されていると思うのですが、今後そういったものをポケモンで開発されるとか、活用されるところはあるのでしょうか。

    石原氏 今、Niantic社の研究で一番進んでいるのが、AR(Augmented Reality:拡張現実)です。

    先ほどの講演でも紹介した株式会社ポケモンの社是に「現実世界と仮想世界の両方を豊かにする」というのがありましたけども、現実世界のレイヤーの上にもうひとつ仮想世界のレイヤーを乗せて、その座標が一致しているAugmented Realityが働く現実空間の仮想要素とか、最近は現実空間か仮想空間かというよりは、現実世界にどれだけ仮想要素が混入しはじめているか、その比率の問題かなと思っておりまして、そういうことを考えていくにあたって我々のビジョンにとってAugmented Realityは非常に重要な技術かなと思っています。

    藤本氏 確かに、ARの方がポケモンの世界観と親和性があると感じますね。

    ポケモンは知らない人と繋がらない? 子どもが安心してプレイできる仕組み

    Q.ゲームで知らない人と繋がる不安、安心してプレイするには?

    藤原氏 ポケモン以外の一般的なゲームのイメージだと、子どもを孤立させるイメージが持たれやすいところを、ポケモンは子どもたちを繋ぐ、あるいは違う世界の人たちを繋ぐことをゲームの中で実現されていると思います。
    ただやはり、知らない人と子どもが繋がって接する機会が生じることを不安に思っている親御さんのコメントや質問も来ているのですけど、そういったことはどう捉えれば安心してプレイできるでしょうか。

    石原氏 これはすごく重要なところだと私も思っていまして、ポケモンでは知らない人と繋がる仕組みを用意しないということを非常に努力しています。

    知らない人と繋がるときには、見知らぬ誰かと通信するというフェーズの中で、お互いの個人情報を交換しないで繋がるというような仕掛けですね。

    任天堂もかつて「すれ違い通信」……それが今のCOCOA(厚生労働省の新型コロナウイルス接触確認アプリ)に活きていますけども、すれ違った人のすれ違った期間にログをとりあって、お互いどういうところで何があったかというのを記録しあう、ただそれは個人情報を共有しないという仕組みがありますけども、このあたりは慎重にコミュニケーションしていくのが大事だと思いますし、グラデーションをできるだけ設けています。
    『Pokémon GO』においても、実際に会った人としかコミュニケーションできなくする、そしてその人とコミュニケーションが重なっていくことで信頼感というか親友度が積み重なっていみたいな、そういう階段を設けていることで、お互いのコミュニケーションが深まっていく仕組みです。そういう仕組みであれば、ある程度安全性は担保されます。

    知らない人と繋がるということに対しては誰でも不安がありますし、ポケモンに限らずこれだけSNSが発達した時代のコミュニケーションは本当に難しいと思います。
    ポケモンはそういったところをできるだけ慎重に、問題が起きない仕掛けを努力して作っているつもりではおります。

    藤本氏 実際にプレイしてみると、そういった努力されて工夫されている所が随所に現れているなという実感があります。
    ぜひお子さんと一緒に遊びながらイメージをつかんでいただくのがいいのかなと私も思います。

    株式会社ポケモンは「ポケモンしかやらない会社」、自社の新作を追いかけるのだけでも大変!?

    Q.株式会社ポケモンはどんな雰囲気の会社なのでしょうか。

    藤本氏 いろいろな観点の質問をいただいています。次のご質問は、「株式会社ポケモンの雰囲気」についてですね。
    株式会社ポケモンの社員のみなさまは、遊びに関する理念をお持ちだと思うのですども、社内では何かプレイフルに楽しく仕事を楽しくする工夫とか、組織的にサポートしていることってあるのでしょうか。

    石原氏 そうですね、株式会社ポケモンってある意味変な会社で、ポケモンしかできないんですよね。
    「株式会社ポケモン」という名前を付けてしまったがゆえに、ポケモン以外はやれないし、ポケモン以外のことがやりたい人は早く独立したほうがいいということなので、みんなポケモン縛りであると。
    そんな中で意外と……皆さんがさっき(チャット欄で)「アルセウス遊んでます」と多く答えてくださって非常に嬉しかったのですけど、『Pokémon LEGENDS アルセウス』をやりこむだけでも相当大変なんですよね。
    その1か月前に『ポケットモンスター ブリリアントダイヤモンド・シャイニングパール』も出ていて、「ポケモンカード」の新弾もこのくらいのスピードで出ていて、『Pokémon GO』もコミュニティ・デイがあって、そして『Pokémon UNITE』が生まれて……。あとテレビアニメもあります。
    やることがありすぎて、社員が今、うちでやっていること全てをクリアするだけで大変なんですよね。
    そこをお互いがフォローしあって、Slack上で共有してこんな大会やりますとか、こんなカードのTipsについて勉強会やりますとか、みんなでゲームを学ぶとか。そういう機会は増えているなと思いますね。

    石原恒和氏の「遊び観」ー遊びとは、好きな時に好きなように何にも束縛されないで行動すること

    Q.石原さんの「遊び観」はどのようなものですか?

    藤本氏 石原さんの「遊び観」を伺いたいという質問もいくつかあったんですが、ご自身の遊びの経験というのがベースにあるんでしょうか。
    それともポケモンの遊びを大事にされている所で、さらに補足できることがあればお願いします。

    石原氏 私個人のベースにあるのは、囲碁将棋やマージャンが好きな少年時代とか、さっきの書初めで書いた「遊びをせんとや生まれけん」とあるように、「遊戯」ですね。
    「遊戯」の在り方って、拘束されないことや自由であることってすごく大事だと思っていて。
    幼稚園の時にお遊戯の時間があって、私はそれが果てしなく嫌いだったんですよね。「さあこれから自由にお遊戯しなさい」と強制される矛盾に、「これ、おかしいだろ」と思ったりしたので、好きな時に好きなように何にも束縛されないで行動するっていうのが遊びだと思っています。

    ゲーム作りの意識は「誰も遊んだことのないゲームを作る」から「どうリファインするか」に、さらに変化は続く

    Q.長年のゲーム作りで、ターゲットやゲーム作りの意識の変化はありますか?

    藤本氏 長年愛されるポケモンを作ってきて、最初の頃の特定のターゲットがあって、だんだん二十何年やられているうちに、変わってきているのかという質問がありました。

    最近では大人向けの傾向のものが増えてきているんじゃないかとか、そういった長年やってこられて変化してきたゲーム作りの意識は変わっているのでしょうか。

    石原氏 そうですね。私は「テレビゲームー電視遊戯大全―」という本を1988年に作ったんですが、当時のゲーム黎明期の頃のゲーム開発って「誰も遊んだことのないゲームを作ってやろう」って、そういう意識の時代でした。

    当時は映画も2とか3とか続編を作ることは恥ずかしいことだ、常に新しいストーリーやスペクタクルを見せるものだと思われていて、ゲームもこれまでに見たことのない、なんだこれは?というものを作るというのが、ゲーム開発だったんですよね。
    『ポケットモンスター 赤・緑』をつくって、そして続編の『ポケットモンスター 金・銀』を作るに至ったときに、「また同じものを作るんですか?」ということを言われています。

    そんな中で、自分たちにとって「より面白いポケモンが作れるんだったらこういう風に作っていこう」と、アイデアがどんどん出てきて、その歴史の中でポケモンは成長してきました。
    ポケモンをどうリファインしていくか、どう壊しながら次の世界を築いていくか、そういう作り方から、今あるようなコミュニケーションを軸として人と人がどのような繋がり方をするとゲームが成立するかとか、そういうフェーズに変わってきているところもあります。
    ゲームの持っている役割と、作り始めた時代のニーズは、業界に長くいるせいもあるかもしれませんが、ずいぶん変わったなと思います。

    アイデアをゴールに持っていくプロデュースー厚い企画書を燃やしてスタート地点に戻すのが効果的なことも

    Q.アイデアをゴールに持って行くには?

    藤本氏 石原さんは、田尻智さんや多くのクリエイターの皆さんとコラボレーションしてこられた思うんですが、そのアイデアの良さをうまくプロデュースしてゴールに持って行くまでの石原さんの関わり方やポイントで話いただけることがあればお願いします。

    石原氏 都度違うんですけど、例えば先ほどの質問にもあった『Pokémon GO』をどうやって作ったんですかというところに、一つヒントになる話があるかもしれません。

    『Pokémon GO』の開発当時、ポケモンがすごく好きな人がGoogleの中にいて、「ポケモンだったらこんなに面白いことができる」と持ってきた企画書の厚みが2センチくらいあったんですね。一方で、今度は『Ingress』を遊びこんだポケモンのプランナーが、「『Ingress』のようなすごい位置情報ゲームのチームと作れるなら、ポケモンをこんな風に発展できる」と作ってきた企画書が、やっぱり1センチ5ミリぐらいある。
    お互いに大変詳しくポケモンと『Ingress』について知っているので、掛け合わせるとものすごく難しい高度なゲームができることはわかっているのですけど、それを遊ぶ人はほとんどいないんじゃないか?ということもわかっているんですよ。難しすぎて。
    ものすごくとんがった人は遊んでくれべるけども、ほとんどの人は入口でさようならしてしまうだろうというのが、最初のプランだったんです。

    そこをとりあえず全部やめて、厚い企画書は全部燃やして、ポケモンをただ地図上で捕まえるだけ。というのを一回やって、それをどうやったら面白くできるか一回みんなで考え直そうか、とスタート地点に戻すとか、そういうプロデュースの仕方が効果的なときもありました。

    でも、このあたりはスタッフがゲームに対してどの位置に持って行きたいと思っているかとか、個々の資質にもよるので、そのやり方で行けば毎回うまくいくわけではないですよ。
    いろいろなケースがありますが、すごくいいゲームを思いついた!とアイデアを持ってくると、企画書がぶ厚すぎるというようなことはよくありますよね。

    「ポケモンが絶対に変えないこと」は、導入部分のあのシーン

    Q.ポケモンの世界観づくりで気を付けていることは?

    藤本氏 ポケモンの世界観づくりについてもいくつか質問があったのですけども、私もプレイしていて導入がすごく優しい感じで、ゲームの世界に導いてくれるところがあると思うんですね。
    お母さんがいたり、友達がいて「頑張ろうぜ」と励ましてくれたり、あのような世界観は、周りにそういう環境がない子どもたちにとっては本当に救われるような気持ちになってゲームをもっとやろうという意欲が湧くと思うのですけど、ポケモンの世界がもつ「温かみ」みたいなところは、何か意識して作られているところがあるのでしょうか。

    石原氏 ゲームで言いますと、赤・緑時代から「ここだけは絶対変えない」というのが、ゲームのスタート地点で三匹の中からどれかを選ぶことです。ここを「こんなの知ってるよ」を言われようが、できるだけ丁寧に作るのは、大事なところですね。
    初めての人にとってちゃんと親切で分かりやすく、プロの人によっては「ここだけしょうがない、Aボタンで飛ばしながら見るよ」と、初めての人にとってもプロのように上手になった人にとっても嫌じゃない作り。
    優しさっていうのはそういうところなのかもしれないですね。

    藤本氏 三匹から選ぶその選択させるところも、はじめからこのキャラクターと決まっているわけではなくて、選択に参加させてだんだん引き込んでいくのが大事にされている、「ここは変えない」ところなのかと思いました。

    石原氏 ただ、ポケモンシリーズを20年もやっていると、「三匹から選ぶのはもうやめましょう」という声も出てくるわけですよ。
    「だって、破壊して新しく次の遊びを作ろうって言ってるのに、なんでここは変えないんですか?」みたいな意見が出てくるんですね。でも一貫して変えない、という場所がそこですね。

    石原恒和氏が特に思い入れのあるポケモンタイトルは……

    Q.石原さんはどのポケモンゲームが好きですか?

    藤本氏 石原さんがこだわりを持って思い入れのあるポケモンゲーム、どのポケモンゲームが一番好きですか?という質問がありました。

    石原氏 私にとっては、作る側として徹底的に作ったのが「ポケモンカード」なんですね。
    そのカードを経て、世界大会を開き、世界中の人がポケモンカードで戦い合って頂点を極める、そんな野望を成し遂げたいということがあって、「ポケモンカード」は一番大きい所ですね。


    それからやっぱり『Pokémon GO』というのは、先ほどお話した作り方や巡り合わせも含め、劇的に物事が展開して、開発期間は一年半。長いと言えば長いけども開発にとっては短く、しかもできあがった当時は、ジムもなければポケモン交換もできず、バトルもなく、非常にこんなゲーム大丈夫? みたいなところから、今ではゲーム本編ともつながれるようにまで仕様に進化してきているという意味では、『Pokémon GO』はもう6年目になりますけども、印象深いものがありますね。

    『Pokémon GO』によって、人類は深宇宙に到達!?

    石原氏 『Pokémon GO』について、ここでご覧いただきたいのが国土交通省の「まちづくりにおける健康増進効果を把握するための歩行量(歩数)調査のガイドライン概要(外部リンク)」という資料なんですけど、要するに「1日1歩多く歩くと、人はどれくらい健康になって医療費を節約することができるか?」というのを調査してくれたんですね。


    新潟県見附市の3万人くらいを対象に、歩数計でそれぞれの人たちの歩数と医療費の相関をとってみると、より多く歩いている人の方が医療費が少なく済んでいると。
    それを計算していくと、1日1歩多く歩くことによって0.061円の医療費抑制効果があるという結果を出していました。

    これは面白いなと思って、『Pokémon GO』ってこれまで何km人々が歩いてきたのかなと、走行距離を全部足してみたんですね。そうすると360億kmくらい歩いているんですよ。
    大体、地球から冥王星の距離が44億kmなので、それの7倍くらい。深宇宙まで『Pokémon GO』によって人々は歩いていて、それを1歩70cmくらいに割り戻すと、3兆円くらいの医療費抑制効果があるという計算結果が出てきて、「これすごいじゃん!」って。何にもしていない状態からこれだけ人を歩かせたって結果って、すごく面白いなと思いました。

    ゲームが育む日本のデジタルリテラシー

    石原氏 あと、やはり日本のデジタル教育ってすごく遅れていると感じていて、コンピューターやスマホを使いこなす、あるいはネットワークに入ってコミュニケーションをするっていう技術がすごく遅れているので、みんなコンピューターとしてのゲームをしっかりやって、コンピュータへのリテラシーをもっと高めていかないといかんのではないかと思いましたね。

    藤本氏 そうですね、ゲームをしながら操作スキルが学べたり、『Pokémon GO』で歩くことで得られる健康もそうなのですが、心身の「心」の部分で自己効力感が高まったりといった結果は、東京大学の研究でも出てきています。『Pokémon GO』をプレイしている人の方の多くが中高年の方ですけども、自分に自信が持てるようなそういった調査結果も出ていたりもします。
    本当に遊びを軸足にして、いろんな人のつながりとか、こういった人の健康までもカバーされているというのが、ゲームの非常に優れた素晴らしい所かと思います。

    終わりにーポケモンシリーズのように、ずっと続けると面白いことがたくさん生まれる

    藤本氏 残念ですけども、そろそろお時間となってまいりました。

    最後に視聴者のみなさまにひとことメッセージをいただければと思いますが、いかがでしょうか。

    石原氏 ちゃんとお答えすればよかったと思う質問もたくさんいただいていたのに、うまくお答えするタイミングがなくて申し訳ございません。
    またみなさんからの質問に答えたり、むしろ私も分からないことも多いですし、もうちょっと勉強しないと答えられないことも聞いていただいているなと思いますので、またチャンスがありましたら勉強させていただきたいと思います。ありがとうございます。

    藤本氏 本当にいろんな観点から質問をいただいていて、またみなさんとこういった話題でお話しできる機会があればと思います。
    私もこういう研究をもう15年近くやってますけども、ポケモンと一緒で、ずっと続けると面白いことがいっぱい出てきますので、ポケモンでも研究させていただきますので、またこのように皆さんとご一緒させていただければと思います。

    石原氏 そうですね。ぜひ、『Pokémon UNITE』の世界大会に参加してほしいですね。

    藤本氏 『Pokémon UNITE』、がんばってみなさんプレイしてください。私もこの週末は『Pokémon LEGENDS アルセウス』をもっと頑張ってやってみたいと思います。

    では、石原さん、どうもありがとうございました。

    ■前編・石原恒和氏の講演「ポケモンがゲームにおいて大切にしていること」はこちら
    ■講演全編の動画はこちら(YouTubeへジャンプします)

    掲載された情報はすべて記事公開日時点のものです。