あなたはお医者さんになりたいですか?それならゲームをしてください。
お子さんをお医者さんにしたいですか?それならゲームをさせてください。
一体何を言っているんだ…?と思った方も多いと思いますが、ニューヨークの腹腔鏡手術の専門医はこう言いました。
「私は、ゲームで鍛えたスキルを手術に使っている」
今回はゲームが持つ学びの可能性と、ゲームに夢中になる子どもたちの関係について、いくつかの研究結果を基にお話していきます。
ゲームをする医者は、ゲームをしない医者よりミスが37%も少ない
ジェイムズ・ロッサー博士は、以前、ニューヨークのべス・イスラエル病院で腹腔鏡手術トレーニングの責任者を務めていて、現在は地元フロリダの病院にいらっしゃいます。
彼は、若い頃にゲームをプレイしていた医師はしていない医師よりも手術でのミスが37%も少ない事を発見しました。
この発見は、他のゲーム研究の報告とも近しいものです。
その発見を活かして、外科医の研修に任天堂の「ゲームキューブ」を使用したり、手術前の医師たちにゲームをプレイすることを推奨したりしています。
どうしてゲームをすると良いの?手術とゲームの操作は実は似ている!?
では何故、そのような研究結果が出るのでしょうか?
手術とゲームの意外な共通点とは?
ここで一旦腹腔鏡手術を行う医師と、テレビゲームをプレイする子どもの姿をそれぞれ想像してみてください(腹腔鏡手術はイメージしにくいかも知れませんが…)。どこか似ていると思いませんか?
実は、腹腔鏡手術というのは、すべてモニターを見ながらコントローラーを操作するのです。そうなんです。
この視覚と手の協応動作がゲームとよく似ているのです。
ゲームをプレイしているとき、常にコントローラーを見てはいませんよね。むしろほとんどゲーム画面を見ていると思います。
つまり、目で見た情報を脳内で整理して、適切な手の動きを実現しているのです。ゲームをプレイすることで、この協調スキルが磨かれます。これは何も、腹腔鏡手術に限ったものではなく、様々な仕事や日常生活で必要なスキルなのです。
また、腹腔鏡手術では、腹部の中から、異変の起きている部位を瞬時に発見して、処置する必要があります。これには「視覚的な選択的注意力」という力も大切なのです。あまり聞き馴染みのない言葉だと思いますので、少し丁寧にお話します。
「視覚的な選択的注意力」って?これもゲームで身に付くの?
まず「選択的注意力」というのは、様々な情報の中から、重要なものを選別し、それに集中する力のことです。
と言ってもまだ分かりにくいと思うので、
「りんご・みかん・いちごの3種類の果物が画面に流れてくるので、りんごの数だけ数えてください。」
という状況を思い浮かべてください。

そうすると、恐らくりんごにだけ集中して、みかんやいちごには気を配らないですよね。これは目で見た果物の情報なので、「視覚的な選択的注意力」ということになります。果物の名前の音声が聞こえてくるのならば、聴覚的というわけです。
これがなぜ必要かというと、先ほどの腹腔鏡手術であれば、腹部の中から、異変の起きている部位に集中しなければならないので、この力が必要になるというわけです。この力とゲームの関係についても研究結果が出ています。
2004年、ニューヨークのロチェスター大学の脳神経学者の研究チームは、アクションゲームをプレイすることで、「視覚的な選択的注意力」が向上することを発表し、全米で大きな話題となりました。
ゲームでは常に画面上で多くのものが動いているので、その中で、重要なものとそうでないものを見分ける方法を学び、それに必要な集中力を磨いているんですね。このような力もまた、どんどん多様化していく時代の中で必要な力の一つというわけです。
現代社会で必要な能力をゲームで学習
ここまで、いくつかの研究結果を基に、ゲームで身に付くスキルや力についてお話してきました。
このような力は現代社会においてとても重要ですが、勉強だけで学ぶことはなかなか難しいです。
勉強も勿論大切で、たくさんのことを学べるので、ゲームばかりしていてはいけません。
しかし、ゲームも娯楽としてだけでなく、楽しみながら学べるツールとして、現代社会で必要な能力を身に付けるために活用することは非常に大切なことなのです。
どうして子どもはゲームに夢中になるの?
では、勉強が嫌いな子が多く、ゲームが嫌いな子は少ないのでしょうか?
子どもたちはゲームでの「学び」に気づいている
子どもはゲームをプレイしているとき、ゴールを目指したり、競争したり、銃を撃ったりという表面的な行為ではなく、それらを通して得た「学び」に夢中になっているのです。
将来のためにどんな力がついたかまでは、子どもたちは分かっていないかもしれませんが、「今日はこれができる様になった!」「今日はこんなことを知った!」など何かしらの「学び」、そして「成長」にはきっと気づいているのです。そしてそれは「学び」を強制される勉強よりも、強制されないゲームでこそ、楽しめるのです。
ゲームってこんなことも学べるの!?
最後にゲームが持つ学びの可能性を示す、興味深い例を紹介します。
子どもを持つ幼稚園教師がこんなエピソードを語っていました。
幼稚園の息子が「ザ・シムズ」という生活シミュレーションゲームをプレイし始めました。ある日、二人で散歩をしている最中に公園を通りかかったときに息子はこう言いました。「ママ、この公園はすごく高いよ、シムズでぼくが公園を作ったら、小さいものでも1,250ドルもかかったんだ。この公園は大きいから20,000ドルぐらいかかると思うよ。たくさんの人が働いて作ったんだと思うよ。」
さらに、その子は、またある日の散歩中に売り出し中の家の前通ったとき、不動産屋の案内を手にして、売値を確認して、「ママ、うちの総資産はいくら?」と尋ねたそうです。
就学前の子どもが建設にかかるコストや労力について語っているのです。
子どもたちはこんな小さなころから、社会の複雑な概念もゲームから学んでいるのですね。そして、街中で「あ、これはゲームで出てきた!」なんて思えると、子どもはさぞ嬉しくて、ますますゲームに夢中になっていくことでしょうね。
今回は、ゲームによる学びと、それに夢中になる子どもたちについて、お話してきました。しかし、多くの大人たちは未だに、ゲームはあくまで娯楽の一種であり、むしろ有害なものでさえある、という固定観念を捨てきれずにいます。
ゲームが学習に良い効果があることが理解されれば、子どもたちの教育へ新たな一歩を踏み出すことが出来るのです。そして、お母さん、お父さんが「今日はゲームでどんなことをしたの?」などと問いかけてあげることで、子どもたちはより「学び」や「成長」を実感できるのです。
「ゲーム=悪」という考えを一度取り払って、ゲームの持つ学びの可能性を信じて欲しいと思います。
(出典)
マーク・プレンスキー. 藤本 徹(2007) . 『テレビゲーム教育論』 . 電機大出版局 .
米研究報告│アクションゲームで視覚能力が向上、
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東京大学 藤本徹氏│
記事執筆者